〈 2018秋 嬉野・塩田の陶土屋さんを訪ねて 〉
有田焼陶土製造業者の方を日々の感謝と親しみを込めて、陶土屋さん・土屋さんと呼んでいます。
今年の記録的な猛暑も去り、漸く秋めいて来た九月末に河口名誉会長の案内で、有田から約20㎞程の嬉野市塩田町へと会員20名が訪れました。
嬉野町から有明海へとそそぐ塩田川沿いの、塩田津には有明海から潮の干満を利用して、河口上流約5㎞内陸に荷揚げ場が整備され、天草より陶石が有明海を渡り、塩田川上流の陶土屋へと運ばれて行き、明治以降、水車を動力にして、往時70軒を数え農閑期の副業として始められた、陶土作りは現在17軒で営まれています。
陶土作りは過酷な仕事です、同じ天草陶石でも鉱山により違いがあり、先ずは陶石の等級による選別を鉱山別に行い、其々に違う性質を持つ陶石を、用途に応じ組合せ配合して行くところに、陶土屋さんが代々受け継いだ、永い経験が生かされています。
特に我々陶芸家が使う陶土は天草陶石を水洗い、選別した最上級の陶石を磨きと呼ぶ工程に於いては、硬い陶石の表面に付着した、鉄分を一個ずつ人手にてハンマーで削り取り、まるで大吟醸酒を仕込むような手間と情熱を込めて、陶石を磨いて行きます。
昔は水車を動力に用いたスタンパー粉砕、水簸、脱水、練り、と云う工程を経て、多大な騒音と粉塵にまみれ、各各、陶土屋さんがこだわりを込めた、陶土が作られています。
製造が分業化された有田焼は陶土に於いても、大手窯元から個人作家に至るまで、陶土は陶土屋さんから購入して有田焼を作っており、焼き上がりの色の違いに応じて、純白な特上から・撰上・撰中・撰下と含有する鉄分の量により分類され、それぞれ作り手の望む素地の白さに合った陶土を選んでいます。
柿右衛門氏の赤絵の美しさを際立たせる、濁手と呼ばれ米のとぎ汁に例えられる乳白色、少し青味を帯びた素地に冴えわたる、今右衛門氏の精緻な色鍋島の模様、また特上陶土を使う事でのみ生み出される、西施の如き純白な白磁。
昔のような、良質な陶石が少なくなった現在は天草陶石を採る鉱山、それを陶土に精製する人々なくして世に誇る有田焼を創り出す事は不可能でしょう。
我々陶芸家は、その苦労も知らず電話一本で注文し置いて、今日すぐに配達しろだの、やれ疵が出た、そして最近の陶土は質が悪いだのと云う、妄言を深く反省するとともに、おおいに知見を広めた見学会でした。
最後に今回見学をさせていただいた、陶土組合・渕野・香田各氏には謝意と共に今後も継続して有田焼・我々陶芸家の為に、陶土を作り続けて頂きたいと念ずるものであります。
有田陶芸協会監事 高森誠司
詳細は、http://arita-artists.com/report201810/